傷病手当金の支給期間
1年6カ月と理解しているだけでは、落とし穴が待っていますので図を確認してもらってルールを一つ一つ理解していきましょう。
同じ病気やケガまたはその病気やケガから発症した病気やケガについて1年6ヶ月
まずは1年6ヶ月とは治療期間や実際に傷病手当金が支払われていた期間ではなく、暦でいうところの1年6月です。
1月1日から傷病手当金の支給を受けた場合は、翌年の6月30日まで支給されます。(待期期間がある場合は、1月4日から翌年7月3日まで)
※会社を退職し、任意継続保険に加入している状態で新たに病気やケガをしても、その病気やケガでの傷病手当金は支給されません。また、支給期間のルールも変わります。
詳しくは継続給付の支給期間へ↓
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ルールが変わる?継続給付の支給期間
継続給付の場合、断続して受けられない 継続給付を受ける場合の一番の落とし穴は、一度病気やケガが治って働ける状態になり、受給を受けなかった(受けられなくなった)場合、再度、体調が悪化して働けなくなったと …
※参照:健康保険法第99条2項の4
4 傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して一年六月を超えないものとする。
傷病手当金の支給期間の起算日
傷病手当金の支給が始まった日を支給起算日といいます。上の例で言うと1月1日から3日が待期期間で1月4日から傷病手当金の支給が始まるため、4日が支給起算日となります。1月1日は待期期間の起算日となるので混同しないようにしましょう。
もし、労務不能となり会社を休み始めたが、会社から1カ月は報酬(休職給など)が出ていて、傷病手当金をもらっていなかった場合などでは、実際に傷病手当金の支給が始まった日が支給開始日となり、その日から1年6月が傷病手当金の支給期間となります。休み始めの1カ月間を溜まっていた有給休暇を消化した場合などが該当します。
また、一部の報酬が出ていたが傷病手当金の額より少ないため、報酬との差額を傷病手当金として支給されている場合は、差額分の支給が始まった日が支給期間の起算日となります。
※参照:健康保険法第108条1項
疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないとき(第百三条第一項又は第三項若しくは第四項に該当するときを除く。)は、その差額を支給する。
※参照:報酬が出ている場合の支給期間(昭和26年1月24日保文発第162号)
法第108条の報酬を受けなくなった日または報酬の額が傷病手当金の額より少なくなった日より起算して1年6月を限度として支給される。
※参照:報酬が出ている場合の支給期間の起算日(昭和25年3月14日保文発第571号)(昭和26年1月24日保文発第162号)
報酬の支給が停止された日から、または、減額支給されることになりその支給額が傷病手当金の額より少なくなった日から起算される。
※参照:報酬の一部が継続的に出る場合の支給期間の起算日(昭和21年6月20日保発第729号)(昭和26年1月24日保文発第162号)
その差額の傷病手当金の支給を受ける場合において、その支給を受け始めた日をいう。
同じ病気やケガなら途中で働いて、また休んでも支給期間は変わらない
例えば、1ヶ月休んで傷病手当金を受給し、その後、調子が良くなって1ヶ月間働いた後、また休んだ場合でも、同じ病気やケガまたは、その病気やケガから発症した病気やケガであれば最初に傷病手当金を支給された日が起算日となり、そこから1年6月の間となります。
同一の病気やケガの考え方
ややこしいところですが、同じ病気やケガまたは、その病気やケガから発症した病気やケガとは、単に同じ病名でなければいいという訳ではなく、最初の病気と因果関係があるのかどうかということです。
例えば、うつ病で1ヶ月休んで傷病手当金を支給された人が2ヶ月働いた後、自律神経失調症となり休んだ場合は、最初のうつ病と同一の病気または、その病気から発症したと判断され、支給期間は最初のうつ病の支給開始日から1年6ヶ月が支給期間となります。
同一と思われる病気やケガであっても、その病気やケガが一旦、治癒して新たに同じような病気やケガになった場合は、新たな病気での傷病手当金の支給開始日から1年6ヶ月が支給期間になります。例えば、右足を骨折して休んでいた人が、治癒した後、また、新たに右足を骨折した場合など。
ここで重要な治癒の判断(特にうつ病などの精神性疾患)については、医師の証明や投薬の有無、通院の記録などをみて、保険者が判断します。治癒の判断については、医学的な治癒及び社会的治癒という判断基準がありますので詳しくは社会的治癒とは?へ
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同じ病気の時に重要な社会的治癒とは?
傷病手当金の社会的治癒ってどういうこと? 社会的治癒とは、同じ傷病で傷病手当金を支給される場合、前回の病気やケガが治癒したかどうかの判断基準です。 傷病手当金の支給期間は1年6ヶ月ですので、例えばうつ …
傷病手当金をもらっている時に、まったく別の病気やケガになった場合の支給期間
すでに説明した通り、うつ病で休んでいる人が新たにガンにかかった場合などでは、その病気やケガについて新たに待期期間を経て1年6月の支給期間となります。
ただ、この場合は前後の病気やケガにまったく因果関係がなく、前後の一つの病気やケガで労務不能である場合に限ります。実際は、病気やケガから回復していく訳でその場合の取り扱いは難しくなってきます。
(最初の病気は労務不能状態で、後の病気のみでは労務不能ではない場合の支給期間)
例えば、腎臓病の人が徐々に回復していき、働ける状態になりつつあった所で、気管支炎になって働けない場合などでは、気管支炎のみで働けない状態でなければ、支給期間は腎臓病で傷病手当金が支給されてから1年6月となります。
(後の病気のみでも労務不能である場合の支給期間)
例えば、心臓病の人が徐々に回復していき、新たに肺炎になった場合では、肺炎のみでも労務不能である場合は、新たに肺炎のみで労務不能となった状態から1年6月の支給期間となります。この場合、心臓病での労務不能状態が1年6月であれば、心臓病についての支給期間が終了した後、新たに肺炎での支給期間が始まることになります。
※参照:保険給付の疑義解釈に関する件(昭和26年6月9日保文発第1900号)
労務に服することができない資格継続のものが、他の疾患(既往症との因果関係はない)によつても休業を認められた場合の傷病手当金の支給について
(回答)
五月二十八日付保本庶第五一一号もつて標記の件につき照会があつたが、一の疾病について療養のため、労務不能の期間中に他の疾病が発生したときにおける傷病手当金の支給は、労務不能の主たる原因が何れの疾病によるかによつて定めるべきである。従つて、御例示の他の疾患の療養のため労務不能と認められる場合には、前の疾病に関する期間満了後においても引続き傷病手当金の支給をなすべきものである。
※参照:心臓病と肺炎の傷病手当金支給(昭和26年7月13日保文発第2349号)
健康保険被保険者資格存続中の者で、心臓病による傷病手当金の期間満了後なお引き続き労務不能であり、療養の給付のみは受けつつある者が、肺炎(前記疾病との因果関係はない。)を併発した為、両方の疾病と同程度の状況で、かつ労働不能である場合には、併症の肺炎に対して再び傷病手当金の支給を開始してよろしいか。
(回答)
昭和二十六年六月二十五日付保本給第五一一号で照会のあつた件については、肺炎のみの場合において労務不能が考えられるか、否かによつて支給又は不支給の措置をとられたい。
(回答)肺炎のみの場合において労務不能が考えられるかどうかによって支給または不支給の措置を取りなさい。
まったく因果関係のない病気であれば無限に傷病手当金をもらうことは可能か?
たまに、こんな質問を受けることがありますが、結論から言うと理論的には可能です。
ただし、連続して休職した場合、一般的に休職期間が3年以上になると、会社の就業規則により解雇されるか退職となるため、不可能と考えた方がいいと思います。
また、一旦、病気が治癒した後、普通に出勤していた場合でも、前後の病気に因果関係があるかどうかの判断はすでに述べた通り、保険者が判断しますので心臓病とうつ病など一見、因果関係がない病気でも保険者が因果関係があると判断すれば、傷病手当金の支給期間は最初に発症した病気の支給起算日から1年6ヵ月で満了することとなります。
出産手当金を受けた場合
出産手当金は傷病手当金より優先して支給されます(健康保険法第103条)。では、傷病手当金をもらっている最中に、出産手当金が支給された場合の傷病手当金の支給期間は長くなるのかという疑問が出てきますが、この場合でも、最初に支給が開始された支給開始日より1年6月です。
※参照:健康保険法103条(出産手当金と傷病手当金との調整)
1 出産手当金を支給する場合(第百八条第三項又は第四項に該当するときを除く。)においては、その期間、傷病手当金は、支給しない。ただし、その受けることができる出産手当金の額(同条第二項ただし書の場合においては、同項ただし書に規定する報酬の額と同項ただし書の規定により算定される出産手当金の額との合算額)が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないときは、その差額を支給する。
2 出産手当金を支給すべき場合において傷病手当金が支払われたときは、その支払われた傷病手当金(前項ただし書の規定により支払われたものを除く。)は、出産手当金の内払とみなす。
出産手当金をもらっている最中に病気やケガになった場合は、出産手当金の支給が終わった後、支給要件に該当していれば傷病手当金の支給期間が始まります。
※参照:出産手当金と傷病手当金の支給期間(昭和4年6月21日保理第1818号)
傷病手当金の支給を受けている途中に出産手当金の支給を受けた場合は、傷病手当金の支給を受けることができなかった場合でも、傷病手当金の支給期間は、その支給開始日から1年6月となる。
傷病手当金の受給中に逮捕された場合の支給期間
考えたくない状況ですが、傷病手当金は犯罪を犯して刑務所などに入れられた場合は支給されません(健康保険法第118条)。傷病手当金を受給中に犯罪を犯して、刑務所などに入った場合の支給期間も変わらず1年6カ月となりますので、早く出所しなくてはならないという話になります(出所後は傷病手当金はもらえます)。なお、執行猶予で刑務所などに入っていない場合は、傷病手当金は支給されます。
また、刑務所や少年院で作業中に病気やケガをした場合にも、死亡手当金や傷病手当金なるものが法務省の規定で支給され、これをまとめて、死傷病手当金と呼んだりするようですが、健康保険上の傷病手当金とはまったく別のものです。
※参照:保険給付の制限(健康保険法第118条1項)
被保険者又は被保険者であった者が、次の各号のいずれかに該当する場合には、疾病、負傷又は出産につき、その期間に係る保険給付(傷病手当金及び出産手当金の支給にあっては、厚生労働省令で定める場合に限る。)は、行わない。
一 少年院その他これに準ずる施設に収容されたとき。
二 刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されたとき。
※参照:健康保険法118条1項の厚生労働省令で定める場合(健康保険法施行規則第32条の2)
法第118条第1項 の厚生労働省令で定める場合は、次の各号のいずれかに該当する場合とする。
(1)少年法(昭和23年法律第168号) 第24条 の規定による保護処分として少年院若しくは児童自立支援施設に送致され、収容されている場合又は 売春防止法(昭和31年法律第118号) 第17条 の規定による補導処分として婦人補導院に収容されている場合
(2)懲役、禁錮若しくは拘留の刑の執行のため若しくは死刑の言渡しを受けて刑事施設( 少年法第56条第3項 の規定により少年院において刑を執行する場合における当該少年院を含む。)に拘置されている場合若しくは留置施設に留置されて懲役、禁錮若しくは拘留の刑の執行を受けている場合、労役場留置の言渡しを受けて労役場に留置されている場合又は監置の裁判の執行のため監置場に留置されている場合
※参照:拘禁中の傷病手当金支給期間(昭和4年7月10日事発第1175号)(昭和5年8月26日保規第451号)
傷病手当金の支給を受けている被保険者が、法施行区域外に赴き法第118条第1項第2号に該当するに至ったとき、すなわち監獄、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されたときも、その期間は1年6ヵ月の期間内に包合する。